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2022.11.13イベント

「任意後見×遺贈寄付×社会的養護」セミナー

任意後見×遺贈寄付×社会的養護 前向きな終活、価値ある後見がめざす未来とは

大分銀行宗麟館(大分市)で10月19日、「わたしとみんなの夢をかなえる『あたたかいお金』任意後見×遺贈寄付×社会的養護」をテーマにみんなの後見センター企画したセミナーに参加しました。任意後見を利用して認知症になった時も自分らしく生きぬく準備をして、使いきれなかった遺産は寄付して、次の世代のケアに使ってもらう。そんなお金の循環を地域でつくるぞ!という決意表明のイベント。実現すれば、人に迷惑をかけないための終活を、わくわくするものに変えたい、そんなメッセージが伝わってきました。

自分らしい暮らしを指示できる任意後見制度、法定後見トラブル回避に有効

一般社団法人後見の杜は、日本で唯一、利用者側の立場で後見トラブルの相談にのってくれる組織。代表の宮内康二さんは、介護が必要になったご主人に行政書士の後見人がついたトラブル事例を紹介。

ご主人は寝たきりで特別養護老人ホームに入居。それでも夫婦で一緒に暮らしたいと奥さんは要介護者と一緒に暮らせる有料老人ホームを見つけました、しかし、財産管理を行なっている夫の後見人が拒否。8年以上長生きしたらお金が足りなくなる可能性があり、費用の安い特養に入居しているほうがいいという判断でした。夫婦それぞれが8000万円近くの預金があり経済的に豊かなご夫婦です。「妻と一緒に暮らしたい」と話しているご本人の映像がせつない思いにさせられます。結局、程なくしてご主人は亡くなり、思いは果たせないまま。高齢者にとって今がすべて、後見人の言っていたような長生きリスクがどれほどあったのかかと思わされるケースでした。

ご夫婦が利用していたのは、家庭裁判所が後見人を選ぶ「法定後見」。見ず知らずの専門職が後見人に選ばれることが多く、これまでのライフスタイルを尊重しない指示的な態度がおかしいと思っても、苦情を持ち込む先はなく、交代させることも難しいというので驚かされます。宮内さんは、「認知症や障害で意思能力のない人を支援する成年後見制度は良い制度だが、家庭裁判所や専門職後見人の無責任な運用が制度を冒涜している現状があります」と指摘。

後見制度に精通した宮内さんが勧めるのは、任意後見制度の利用です。自分が信用できる人を後見人に選び、委任契約を公正証書にしておく方法です。

「任意後見契約をつくる時、一番、大切なのは生活。この銘柄のビールを毎日一缶飲みたいとか、何をどのようにしてほしいか、できるだけ具体的に書いておくのがポイントです。介護や財産管理の問題はあとでいい。自分らしい暮らしのための後見ならやっておく意味があると思えるはずです」(宮内さん)

制度上、自分の意思の表明である任意後見は、法定後見に優先し、任意後見の登記があれば、法定後見は行えないため、任意後見には、本人のことを知らない後見人に生活を委ねる事態を避ける予防効果もあるそうです。まさに、備えあれば憂いなし。宮内さんによると、任意後見適齢期は80代。「本人に魅力ある任意後見教室を大分で先駆けて取り組み、全国に広げていきたい」と話しました。

遺贈は人生の振り返りであり、未来を信じる力、3000円からでも可能

続いて、「人生を輝かせる遺贈寄付のご提案」をテーマに講演したのは、立教大学社会デザイン研究所の星野哲さん。朝日新聞の記者時代からライフエンディングをテーマに取材、「人生を輝かせるお金の使い方 遺贈寄付という選択」などの著書があります。

遺贈寄付は、家族以外の第三者に遺産の一部を寄付すること。星野さんの言葉を借りると、「人生最後の社会貢献」。自分の意思で決めておくところが、任意後見とはつながる点。関心のある人は少なくないけれども、一歩踏み出してもらうためには、まわりの伝え方が大事で、仕組みや考え方があることをお伝えすることで寄付率が上がる可能性が高いそうです。

  

紹介された事例で印象に残ったのは、ご主人の遺言で100万円をある公益法人に寄付した奥様の話。寄付先は、アジアの途上国から日本に留学生を招いている団体で、ご主人は生前からボランティアで関わっていましたが、奥様はどのような活動をしているのか、あまり関心がありませんでした。遺言で初めてご主人の思いを知ったそうです。団体関係者から感謝を伝えられた奥様は「夫は何ていい活動をしていたのだろう」と思うと同時に、応援したい気持ちを遺贈寄付という形で実現したご主人に「最後にお金の使い方を教わった」と感じ、自分もNPO法人に定期的に寄付するようになったそうです。お金持ちのすることのイメージがありますが、星野さんによると3000円からでも受け付けている団体があるそうで、実は案外、手軽。

「遺贈は、人生の振り返りであり、未来を信じる力」であると星野さん。遺贈を委ねるのは遺言。公正証書にしておくのは面倒だが、2020年から自筆の遺言を法務省で預かってもらえる制度がスタート。「希望すれば指定した人に死亡したことを通知する死亡通知制度がはじまっていて、遺言が安全かつ確実に実行してもらいやすくなっている」。社会的にも追い風のようです。

児童福祉法に「18歳の壁」、社会に放り出されてきた若者たち

最後に登壇したのは、親が育てることができずに児童養護施設や里親のもとで育った子供たちの社会に出てからを支援する全国ネットワーク「えんじゅ」の副代表、矢野茂生さん。矢野さんは、県庁を飛び出して居場所のない子供たちを支援しようとNPO法人おおいた子ども支援ネットワークを立ち上げた行動の人。言葉の端々からも熱い思いが伝わってきました。

矢野さんは、日本の福祉は、子ども、成人、高齢者といった属性や、抱えているリスクにより制度設計されているために、時代や社会の価値観の変化などによりミスマッチが生じやすいと指摘。18歳を過ぎたら児童福祉法が適用されなくなるために、施設など社会的養護の元で育ってきた子どもたちに強制的に自立を迫ってきた問題もその一つ。学校で学ぶための奨学金どころか、生活費にもこと欠く状態で、「自分なんか生まれてこなければよかった」など自己肯定感をもてないまま社会に放り出され、成人した後も一般的な家庭で育った子供よりも厳しい状態に置かれています。

児童福祉法から〝強制卒業〟させられた若者のアフターケアの活動を行うために、福祉事業者らが2018年に設立したのがえんじゅ。ロビー活動を積極的に行なってきた結果、児童福祉法が改正され、支援を年齢で一律に制限することをやめ、施設や都道府県が自立可能と判断した時期まで継続できるようにするとともに、施設を出た後のサポートも強化するため、相談を受ける拠点の整備にも取り組むことになりました。2024年4月から施行されます。しかし、矢野さんは「自治体により格差がでる可能性もあります」。まだまだ気を許せる状況にはありません。会場では、児童福祉施設の子どもたちが主体的に取り組むネットワークづくりの活動を紹介。はじまったばかりで、参加者は40人ほど。披露したスライドには、若者たちのはじける笑顔があり、できることがあれば応援したいと素直に思いました。

任意後見と遺贈寄付で地域にあたたかなお金の循環、ファイン夢プロジェクト

「おひとりさまや、高齢者、障害のある方によりよく生きるための後見制度の活用を提案していくだけでなく、最終的に残ったお金を遺贈寄付して夢を支える。ファイン夢プロジェクトの実現が私たちの最終的な目標です」

今回の企画の意図を説明してくれたのは、主催者である「みんなの後見センター」の仕掛け人であるファインの茶屋元崇喜さん。ファインは、今の生活スタイルにあった家族葬でシェアを伸ばしている葬儀社。

家族がいない、社会のファミレス化が進む中で、葬儀の生前契約から任意後見に取り組む葬儀社は増えていると聞きますが、個人的な問題に終わらせずに、社会的課題の解決につなげていこうという構想です。すでに、大分市で中立的に遺贈寄付を受ける仕組みができないか各方面に働きかけはじめているそうです。

茶屋元さんはもともと地域づくりに興味があり、社会福祉士の資格も取得。葬儀社ならではの地域活動に取り組んできた経験がベースにあります。「お金の地域循環の仕組みをつくり、それに貢献していくことで、みんなの後見センターが社会資源として認知してもらえるようにしていきたいと思っています」。

相続する人がいなければ、財産は国に召し上げられ、何に使われるかは分からない。長年暮らしてきた地域の福祉向上に使ってもらええる仕組みがあれば、大きな選択肢。残った人に迷惑をかけないようにするというだけの終活が、前向きで楽しいものにもなりそうです。また、任意後見、遺贈寄付、社会的養護は、血縁に頼らないでも安心して暮らせる社会をどうつくっていくかという問題を解くキーワードであり、メルクマールと感じました。今回は夢のお披露目のキックオフベント。今後にも注目し、逐次、報告していきたいと思います。

福祉ライター、編集者 川名佐貴子
介護・福祉の週刊の専門新聞、月刊誌の編集長を歴任。現在はフリーランスとして取材活動を続けるかたわら、編集者として現場の情報発信の支援をしている。目下の関心事は、「きょうだい亡きあと」。社会福祉士、後見相談支援専門員